エッセイ 『ストリート・ファイティング・マン』 我妻許史

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第二回『ストリート・ファイティング・マン』

 多分、大学生。そのぐらいの年代にみえる女性二人組が俺の進行を妨げている。神明通りを西荻窪駅方面へのらりくらり。

 俺は何度か加速して二人を追い抜こうとするけれど、進行上にはコンビニに納品するトラックが駐車していたり、車や自転車が絶妙なタイミングで通過したりしてうまくいかない。それにギターを背負った俺はマリオカートのドンキーコング並に初速が鈍い。亀の甲羅をぶつけるわけにいかないし、バナナの皮も手元にない俺は、二人を追走する形になった。

「最近飲みに行ってる?」

「お金ないから外で飲むときだけしか参加していない」

「わかる。飲み会は行きたいけど飲み屋だとちょっとね」

「そう、路上飲みのときは行ってるけど……」

 二人の会話を聞いてびっくりした。彼女たちにとってはどうやら外飲み(路上飲み)はデフォルトらしい。

 俺は自分の過去を思い出す。俺も散々路上で飲んだ。金が無かったというのが一番の要因だけど、朝までやってる居酒屋が見つからない、とか、外の気候がいいから、というのが主な理由で、デフォルトというわけではなかった。それに、当時路上で飲酒をしている連中というのは底辺バンドマンや、役者見習いや、詩人くずれと相場が決まっていて、目の前を歩く二人のようにコンサヴァーティブな雰囲気をまとった子はいなかったように思う。

 一九六八年、ミック・ジャガーは「ヘイ 俺の名前は邪魔者だ」と歌った。ベトナム戦争への抗議のために路上で戦う若者を歌った曲なんだけど、二十七年経ってジャガーは「今の時代に共鳴する歌とは思えないし、そんなに好きな歌でもない」とコメントしている。

 それからさらに二十七年が経って杉並区の神明通りを歩いている俺は思う。「今の時代に共鳴しているし、好きな歌だ」と。

 二人は牛のように遅い俺を引き離して左折していった。見上げると青空。鳥みたいな形をした雲が流れていく。春だね。

我妻許史

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