ミステリー? サスペンス? 天祢涼 新刊『彼女はひとり闇の中』発売
2023年2月22日(水)ごろ、光文社より天祢涼の新刊小説『彼女はひとり闇の中』が発売されます。
当記事では現役書店員がどこよりも早く、『彼女はひとり闇の中』の魅力をたっぷりお伝えします。
『彼女はひとり闇の中』の興味深い序盤構成
『彼女はひとり闇の中』は、女子大生が友人の無念を晴らすために動き出す謎解き小説です。
冒頭の数ページで、「これは従来のミステリーではないぞ」と読者は気がつくことでしょう。
すでに、犯人がわかっている事件解決ものだと。
謎解きをするミステリーよりも、過程を回収していくようなサスペンスに近いかなと思い、珍しい構成に興味を持ちました。
『彼女はひとり闇の中』その結末はいかに。
ミステリー小説ファンも、サスペンス小説ファンもをきっと唸らせるものがあります。
学生の叫びに感じる「透明化した空気のような痛み」
中盤に登場する男子学生の言葉をきっかけに、自分が思い違いをしていたことに少しずつ気が付かされます。
「普通に売春できる」とは、何とも新しい現代的な日本語だろうと思いました。
「現代の若者」とは、幼い頃にスマートフォンやパソコンに親しんできた世代でしょうか。
最近になってきてやっと、スマホやインターネットの恐ろしさがすこしずつ浸透してきたと思います。
ネットが発達しすぎたゆえの時間の細分化。
孤独感の増加。
それらが当たり前に身の回りにあること過ぎて、わたしは見逃していると思いました。
そのことに気がつかせてくれるのが天祢涼さんの新刊『彼女はひとり闇の中』だと思います。
透明化した空気のような痛み。
もちろん若者だけのものではないと思いますが、青い分うまく対処できなかったり、人に訴えられなかったりするものなのではないでしょうか。
友人間での見栄や恥じらいもあるかもしれません。
読者を度重なって襲うのは、手遅れになってしまった悔い
そんな「透明化した空気のような痛み」に気がつかせてくれる小説『彼女はひとり闇の中』。
けれども作中では、若者たちがその「透明化した空気のような痛み」を訴えてくるのがとても遅いのです。
それぞれがどんな人であるのか。
おそらく読者は皆、手遅れなくらいにならないと読み解けないのではないでしょうか。
これは著者の意地悪では決してないと思います。
現代を忠実に描写したら、こうなっただけということではないでしょうか。
遅すぎる時に他者の痛みに気が付いたら、どう接してどう謝罪するのが適当なのでしょうか。
気付かなくてごめんねでは済まないことも多くあります。
きっと誰しもが「透明化した空気のような痛み」を持っている。
それなのに人のものにはなかなか気がつくことができない。
なんて苦しい世の中だろうと思います。
主人公が定まる小説ではなく、ころころ視点が移る『彼女はひとり闇の中』。
でありながら、多角的にみても気がつかない痛みがこれだけあったことにわたしは衝撃を覚えています。
『彼女はひとり闇の中』
タイトル内の「彼女」に名前を当てられることがなく、「彼女」と3人称でぼかされている。
それは登場人物ひとりひとりが、ばらばらに闇の中にいる様を表していると思います。
タイトルの如く、ひとりで闇の中に。
社会はいつ、「透明化した空気のような痛み」により「ひとり闇の中」にいる各々を救うことができるのでしょうか。
文:東 莉央
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