文学界の未確認飛行物体
フランスで110万部突破! ゴンクール賞受賞! と帯に書いてあるんだけど、これってちょっと「異常」だよね。
だって、売れる小説はゴンクール賞を取らないし、ゴンクール賞を取った作品は売れないんだから!(失礼)
そんな離れ業をやってしまうこの小説は、まさに〝文学界の未確認飛行物体〟なんだろうな。
この小説の特徴は、古典とウルトラモダンがミックスされているところだ。
テーマは「分身(ドッペルゲンガーもの)」という古典的題材で、手法は「SF」、味わいは「未知」。
登場人物もカラフルだぞ! 殺し屋、売れない作家、シングルマザー、カエルを飼う少女、黒人弁護士、ナイジェリアのポップスター(マクロン大統領や、習近平も出てくる…!)。
登場人物たちに共通するのは、フランスからアメリカに飛んだエールフランスに乗っていた乗客という点。3月に飛んだこの飛行機は、突如、嘘みたいな乱気流に巻き込まれるんだけど、なんとかアメリカに到着する。ふう、恐ろしい目にあった……って感じで。
実は、恐ろしいのはこの後で、なんと、このとき飛んだ同じ飛行機が、突如分裂して6月に到着してしまうんだ。
つまり、このエールフランスに乗っていた200人強の人間が、6月を境に突然、この世界に2人存在するという事態になってしまう。3月組と6月組に別れたドッペルゲンガーが200人……!
結末はどうなるのか? みんな、読んでくれたまえよ。
作者エルヴェ・ル・テリエの師匠レーモン・クノーもびっくりの知的な挑戦をしている小説だから(エルヴェは※ウリポの四代目会長)。
※ウリポ (Oulipo) は、1960年11月24日に数学者のフランソワ・ル・リヨネー(フランス語版)を発起人として設立された文学グループ。正式名称は「Ouvroir de littérature potentielle」(潜在的文学工房)。アルフレッド・ジャリ、レーモン・クノー、レーモン・ルーセルらの文学を理想とし、言語遊戯的な技法の開発を通して新しい文学の可能性を追求した。引用したテクストを機械的・数学的な手法で変形・改竄してテクストの自己増殖を促すところに特徴があり、シュルレアリスムの「優美な屍骸」から大きな影響を受けている。
Wikipedia
知的でマジカルな未確認飛行物体的読書を楽しもうぜ。
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