鬼才ボラーニョが残した異形の書
この怪物を読み終えるのに1年かかった。
夏から秋へ、秋から冬へ。年が明けて、また暑い夏がやってきて、掛け布団を出し始めたころ、ようやく読み終わった。

ロベルト・ボラーニョはチリに生まれ、マイナー詩人として文学のキャリアをスタートさせる。
スペインに渡ってからは、さまざまな仕事に就きながら懸賞目当てに小説を執筆。〝売れない作家〟をしながら自分のスタイルを作りあげていく。
この『2666』は、ボラーニョの集大成で、書き上げた後に肝不全で50歳で亡くなった。
死後、刊行されたこの小説は批評家に絶賛。全米批評家協会賞も受賞し、現在ではその評価は不動のものとなった。
計測不明の作家は死後評価される。カフカ然り、ポー然り、ラブクラフト然り……。
軽い死
この小説は5部構成になっていて、2つの出来事を起点にして物語が展開される。
1つは謎の作家アルチンボルディを追う物語。
もう1つは、架空の街サンタ・テレサで起こり続ける未解決の殺人事件だ。
第1部の批評家たちの部はかなり読みやすく、続くアマルフィターノの部で物語は徐々に神経症的になり、フェイトの部で殺人事件の真相に迫った後、続く犯罪の部で読者は混沌の海に突き落とされることになる。
ここで描かれる「死」はとても軽い。英雄的な死はほとんどなく、人々は犯され、モノのように死んでいく。そんな死のレポートが延々と300ページぐらい続いていく。
数えきれないほどの多くの死を執拗に書くことでボラーニョは何が言いたかったんだろう?
俺はこの作品を読み終えて、「永遠」を思った。一つの輪が閉じ、そしてまたはじまっていくような感覚。
人間は過去にも未来にも生きれない。不断の今しか生きれないんだ。それは小説にできる最も美しいことの一つだと思う。
最終章で謎の作家、アルチンボルディが現れ物語の幕は閉じるけど、不思議と物語が「終わった」感じがしないんだよな。何故なんだろうね? その問いを問うために俺は何度もこの二段組の大著を開くことになるんだろうな。
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