西加奈子/くもをさがす ブックレビュー

レビュー/雑記
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書店員がおくる世界最速レビュー#7 西加奈子『くもをさがす』

2023年4月19日(水)ごろ、西加奈子新刊ノンフィクション小説『くもをさがす』が発売されます。

「世界最速レビュー」シリーズとは、発売日まもなく書店員がその小説の見どころをたっぷりお伝えする連載です。

作家・西加奈子の自伝的小説

『くもをさがす』は発売2ヶ月ほど前より「西加奈子初のノンフィクション」として話題になりました。

ノンフィクション小説。自伝的小説。エッセイ。

どれの枠にも相応しく、どれの枠にもぴたりと当てはまる『くもをさがす』。

何を隠そう作家・西加奈子ご本人の闘病記です。

西加奈子『くもをさがす』特設サイト|河出書房新社
祈りと決意に満ちた、西加奈子初のノンフィクション『くもをさがす』特設サイト

『くもをさがす』特設サイト 河出書房

家族と離れて暮らすということ

『くもをさがす』のごく序盤に、西加奈子が自身の母への連絡についてひどく悩む描写があります。

ほんとうは一緒にいられるのがいちばんですが、離れているからこそ考えられることもあります。

電話で「病気になった」と伝えるなんて酷ですよね。

抱きしめてあげたり、そばにいてあげることができない。

その心細さは、著者も母も感じていただろうと思います。

自分のことのように、ぐぐぐと来ました。

異郷の地で暮らすということ

『くもをさがす』では、文化や考えを塗り替える難しさについても多く語られていたと思います。

当たり前のように人にイラッとしてしまったり、何かを求めてしまうのは、きっと私たち自身が悪いわけではないのです。

そうは思いたいのですが、グローバル化、多様性の時代にあっては「適応できていない自分」を感じることがあります。

西加奈子は海外での闘病で、それを切に感じたのでしょう。

この作品を読んで、わたしも猛省しました。

ノンフィクション『くもをさがす』が読者に与える2つのもの

『くもをさがす』は、読者に2つのプラスの影響を与えてくれるかもしれません。

ひとつは、文化や考えについての壁はそう低くないぞと気がつき、自分の未熟さに気がつかせてくれる点。

もうひとつは、自分の体調に日頃より気を配りできるだけ早い対処をし、同時に周りの人をこれまで以上に大切にしたいと思わせてくれる点です。

「あなた」へ届けたいという、終盤に出てきた西加奈子の言葉があります。

『くもをさがす』を届けて、そうしたメッセージもきっと受け取ってもらいたい。

『くもをさがす』はたくさんの方に、きっと届けられるべき1冊です。

国境や文化を超えるための道筋について考える。

自分を、そして周囲の人を、どちらも同じように大切にする。

そのことについてあなたはどう考えますか?

『くもをさがす』を読んで、何を感じるでしょうか。

苦しい日本で生きるということ

『くもをさがす』のなかで、現在の日本について語られている場面があります。

〝どれだけ頑張って働いても景気が回復しない国だ〟と。

〝自分のことで苦しすぎて他者を思いやることができなくなっている〟のだと。

これを私は、日本の空気のようだとすら思っています。

当たり前にありすぎて、確かな存在を認めなかった「焦り」なのだろうと思います。

『くもをさがす』の中ではその「焦り」がとてもクリアな言葉で表現されています。

さすが作家・西加奈子です。

西加奈子は、海外で暮らしている時と、東京にいる時とではお子さんとの接し方が違っているのを感じるそうです。

東京では、外側へ向けて、「母親としてきちんとしている」アピールのようなものをしていると。

そのアピールによって、西加奈子さんご自身も、西さんのお子さんも、疲弊しているのだそうです。

こんな余裕のない生活が、少しでもはやく日本から消えてくれますようにと願います。

そのためにはお金の豊かさと、心の豊かさがきっと必要なのでしょう。

後者は、例えば西加奈子のような素晴らしい作家たちが、ギフトしてくれるものだと私は信じています。

『くもをさがす』は、とても思い切って書いてくださった著者自身の記録や気持ちだと思います。

大切に、かつ、できるだけ大々的に。

精一杯の協力をさせてください。

この場をお借りして。

すばらしい作家のご活躍を、今後ともこころより応援しております。

西加奈子のような素晴らしい書き手を、日本での苦しい生活を送る読者は切望しているのです。

文:東 莉央

東 莉央

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