横関大/メロスの翼 ブックレビュー

レビュー/雑記
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書店員がおくる世界最速レビュー#9 横関大『メロスの翼』

2023年5月24日ごろ、横関大の新刊小説『メロスの翼』が発売されます。

世界最速レビューシリーズとは、発売日まもなく書店員がその小説の見所をたっぷりお伝えする連載です。

『メロスの翼』(横関 大) 製品詳細 講談社BOOK倶楽部
第10回静岡書店大賞受賞の横関大が誘う最高の感動。 世界中の強豪選手が集結した「第1回東京レガシー卓球」。 会場では、急遽出場となった毛利翼(マオリーイー)という中国の補欠選手が注目を集めていた。 初戦でいきなり世界ランク3位の選手を一蹴し...

第10回静岡書店大賞受賞の横関大が誘う最高の感動。

世界中の強豪選手が集結した「第1回東京レガシー卓球」。
会場では、急遽出場となった毛利翼(マオリーイー)という中国の補欠選手が注目を集めていた。
初戦でいきなり世界ランク3位の選手を一蹴した男のユニフォームには、中国選手のはずなのになぜか日の丸が縫い付けられていたのだ。
不思議な選手の登場に動揺するテレビ局の中継スタッフが調べると、6年前、毛利翼(もうりつばさ)という大学生が、殺人の罪で逮捕されていたことが明らかになる。カメラに映る男とその大学生は同一人物なのだろうか?

過去と現在をつなぐ、絆のラリーが始まった

講談社BOOK倶楽部

中国代表ユニフォームに「日の丸」を背負う選手

場面は卓球の公式世界大会です。

日本の実況チームが注目するのは、ある中国代表の補欠選手。

他の選手の体調不良によりピンチヒッターとして登場した無名の新人、毛利翼(マオ・リーイー)がべらぼうに強かったのです。世界ランク3位を圧倒す理ほどの実力でした。

しかし、この謎の中国の若手選手を報道するには1つ懸念する点がありました。

この謎の選手は、中国代表のユニフォームに遠目でもわかるような大きさの日本国旗「日の丸」を縫い付けていたのです。

この真意を組むことができず、実況チームは彼の姿を報道しても良いものか、公的に報道してもいいのか悩むことになります。

施設で育ったリーダーシップと運動神経抜群の少年

並行して語られる場面は、とある小学校です。児童養護施設から通っている男の子が1人クラスメイトにいる5年1組。

この5年1組を受け持つ担任の先生は、自分のクラスでだけ頻繁にトラブルが発生することに頭を悩ませています。

生徒の財布がなくなったり、殴り合いが起こったり。

そんな中、ある日を境にクラスのリーダー的グループが変化を見せました。

児童養護施設から学校へ通っている生徒、毛利翼(もうり・つばさ)がグループのメンバーに加わったのです。

運動神経も抜群で、担任の目から見てもリーダーに映る毛利翼。

運動会ではリレーのアンカーを任され、1位でゴールテープを切るものの、走ることを止めずその勢いで校庭から飛び出していってしまいます。

彼は正義に突き動かされバトンをあるところへ届けようとするのですが、他者の目には奇行に映りました。

『メロスの翼』、主人公は誰なのか

一般的には、小説には「主人公」が存在すると思います。

その主人公は1人の場合もあるし、2〜3人の視点が交互に語られていく場合もあるかと思います。

本日の新刊小説『メロスの翼』ではどうでしょうか。

私が『メロスの翼』を読み終えたときの感想は、「この小説は日本人の少年・毛利翼の物語だ」ということでした。

毛利翼が幼い頃にどのような境遇で育ち、学生時代にどのような友情と正義感を育んできたのか。

そして、毛利翼のずば抜けた身体能力があだとなってしまう瞬間も書かれています。

けれど、小説『メロスの翼』では、この日本人の少年、毛利翼の視点が全くありません。

語り手はとあるカップルであったり、警察関係者であったり、毛利翼の学生時代の友人であったりとしますが、毛利翼は何も語らないのです。

「語り手」という意味で言えば、『メロスの翼』は毛利翼の周囲の人物です。

しかし、小説『メロスの翼』の主題は、「毛利翼の人生そのもの」なのではないでしょうか。

頻出するのに語らない人物

『メロスの翼』では日本人の少年・毛利翼のように頻出はするのに何も語らない人物が他にも登場します。

個人の見解にはなりますが、『メロスの翼』内に登場する名前のわからない「この人物」と「この人物」は同一人物なのではないかと思う箇所が多くありました。

名前を語らずに、己の語りの部分を小説『メロスの翼』では一切持たない。

けれども、『メロスの翼』の様々な視点の人物たちの人生に、少しずつ関わっているような者の影を感じさせます。

国を飛び出して、文化を超えるような友情物語では、そのスケールの大きさゆえに、まだまだ自己紹介をして多くを知り合うことはないのだけれど、ある一点で交わり、助け合っているような脈が存在するのではないでしょう。

深読みの部分ではありますが、書店員を涙させた小説『メロスの翼』には、それほどまでに計算高く作り込まれた部分があるのではないかと思います。

友との物語

太宰治の『走れメロス』を連想させる、友との物語『メロスの翼』。

あなたは友のために、どれほどの悪になれるか。

友のために、どこまで文化を超えていくことができるか。

少し卓球がうまいだけの「普通の」学生たちが見せてくれる友情の物語『メロスの翼』。

自分を試されるようでもあり、あなたを包み込んでくれるような小説でもあります。

文:東 莉央

東 莉央

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