エッセイ 『ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ』 我妻許史

投稿作品

 年が明けた。ハッピーなニューイヤーのムードに包まれて俺はハッピー。街は地方への帰省でガラガラになるし、個人経営の店舗は閉店になる。昼からアルコールを飲みはじめても、祝祭のムードがそれを許してくれる気がするし、なにより正月の空は高い。通りが閑散としているから空間の広がりを感じて、それが空を高く見せているのか、それともこの日だけ、光に特別な成分が配合されているのか、単なる俺の錯覚なのか。まあ、錯覚なんだろうけど。でも、いい錯覚の場合はすすんで騙されたい。

 俺はいつもよりも長い散歩をする。西荻窪駅から青梅街道にぶつかるまで北上して、荻窪方面に歩いていく。途中、初詣で井草八幡に向かうであろう家族連れやカップルとすれ違う。気合の入ったラーメン屋が元旦から営業をしている。俺はファミリーマートでキリンラガーを買って桃井原っぱ公園へ向かう。

 せいせいするぐらい何もない原っぱ公園で子どもたちはボールを蹴ったり、走り回ったりしている。凧揚げをしているレトロなキッズもいる。俺が鼻を垂らしながら凧揚げをしていたときから凧は進化しているのだろうか? ベンチに腰かけて、俺は空を泳ぐ凧を見る。

 ぼんやり空を眺めていると犬が吠えているのが聞こえた。胴の長い小型犬と、スリムな黒い犬が喧嘩をしている。その近くで「あ!」という声が上がった。上空に制御不能の凧が舞っている。犬の声に驚いた男の子が手を放してしまったのだろう。凧は十メートルぐらい先で落下した。リフティングをしていた少年がそれを拾って男の子に手渡す。凧を受け取った男の子に、みんなが微笑みかける。

 ぶっ飛ばされたルーシー。ハレルヤって感じだ。俺は男の子に「ロックンローラーになれよ」とテレパシーを送って公園を後にする。さあ、家に帰ってタンジェリンと餅を食べよう。

我妻許史

コメント

タイトルとURLをコピーしました