原田ひ香/図書館のお夜食 ブックレビュー

レビュー/雑記
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世界最速レビュー#14 原田ひ香著『図書館のお夜食』

2023年6月19日ごろ、原田ひ香新刊『図書館のお夜食』が発売されます。

世界最速レビューシリーズとは発売日まもなく、書店員がその小説の見所をたっぷりお伝えする連載です。

図書館のお夜食
「三千円の使いかた」「ランチ酒」の原田ひ香が描く、本×ご飯×仕事を味わう、心に染みる長編小説。

「三千円の使いかた」「ランチ酒」の原田ひ香が描く、
本×ご飯×仕事を味わう、心に染みる長編小説。

東北の書店に勤めるもののうまく行かず、書店の仕事を辞めようかと思っていた樋口乙葉は、SNSで知った、東京の郊外にある「夜の図書館」で働くことになる。そこは普通の図書館と異なり、開館時間が夕方7時〜12時までで、そして亡くなった作家の蔵書が集められた、いわば本の博物館のような図書館だった。乙葉は「夜の図書館」で予想外の事件に遭遇しながら、「働くこと」について考えていく。

すべてをさらけださなくてもいい。
ちょうどよい距離感で、
美味しいご飯を食べながら、
語り合いたい夜がある。

ポプラ社

小説『図書館のお夜食』

小説『図書館のお夜食』はそのタイトルから想像できるように、本や図書館が好きな人にまさにぴったりとはまる小説となっています。

ものがたりの舞台は図書館。

それも明確な名前がなく、夕方から夜にかけて開館し、作家たちの蔵書を集めて並べている図書館です。

この図書館で働く者たちは類まれなる本の虫として、物語を楽しむだけではなく、本そのものを愛しています。

本を大切に扱い、本を並べることそのものに熱意を持って仕事をします。

小説『図書館のお夜食』は、本の好きな読者には愛されること、間違いなしの新刊でしょう。

夜食のまかない

そしてこの夜の図書館では、司書さんとして働く者たちに夜食のまかないが振舞われます。

「まかない」とは、勤務先がスタッフに対して無償もしくは格安で提供する食事のこと。

私は勝手に「まかない」を昼食のことと思っていたのですが、夜食のまかないも辞書として誤りでは無いそうですね。

大切なのは夕食ではなくて「夜食」であること。

深夜のごく遅い時間に、職場の仲間たちと囲む食事のことを、この小説『図書館のお夜食』の中では「まかない」というのです。

その「まかない」もとても文学的です。

著名な小説の中に出てくるご飯を、「まかない」として提供する。

日本の文豪の小説に登場する食事や、少女小説の中のデザート。

曜日代わりの「まかない」に、読者も、登場人物の司書さん達も癒されます。

中にはあなたが食べたことがないお料理も登場するかもしれません。

異国のメニューであったり、小説の中で創作されたと思われる食事をまかないシェフが実現していたり。

どれもとても食べてみたくなります。

著名な小説の中に出てくるご飯を、「まかない」として提供する。

誰かの蔵書として本棚に収められていた本たちを、かき集めた図書館。

なんて素敵なんだろうと思いました。

初めに「夜の図書館」の蔵書内容について読んだ時に、つい自分の本棚を眺めてしまいました。

確かにこの中身は私の考えや好みがものすごく表れていると思いますし、読書家や作家さんの本棚ほど見たいものはありません。

本当に『図書館のお夜食』のような図書館があったら素晴らしいのにと感じました。

素晴らしい着想を得られていると感じます。

読者が独自に作り上げるものがたりのパーツ

そんな小説『図書館のお夜食』。

独創的な部分が多く、どれも魅力的です。

そんな中からどれかひとつを「主題」として選び取るとしたら、どの要素が主題にあたるのでしょうか。

小説のタイトルが『図書館のお夜食』あるということから、主題はきっと「夜の図書館」や「図書館で働く人」では無いんですよね。

本の中で想像したものが、目の前にぱっと現れる。

そんなまかないの心躍る様を描きたかったのではないかと思います。

本を読む楽しさのひとつ、「読者が独自に作り上げるものがたりのパーツ」が『図書館のお夜食』の主題に当たるのではないでしょうか。

登場人物の人柄を丁寧に描く小説

そして私自身も「今まで実際読んできた小説の中から登場したお料理」を食べる描写を読みながら、小説『図書館のお夜食』の中のすべてがより立体的に浮かび上がってきました。

登場する登場人物たちや、夜の図書館の運営についても、かなり密に思いを馳せることになりました。

登場人物である司書さんたちは図書館で働くときに、自分の好きな本や、自分の思想癖などを、かなりしっかりと共有しあっているのではないかと感じました。

その結果としてこの小説『図書館のお夜食』ではそれぞれの登場人物の人柄をとても丁寧に描写されていると感じます。

ものすごく人物解像度が高くて、それぞれが自由な思考を持っている様がぎゅっと詰まっていると感じさせる小説です。

きっと『図書館のお夜食』は著者である原田ひ香の本と、思考することと、人への愛が詰まった物語なのではないかと思いました。

さらに、その人がどんな人物であるかは先ほどの「読者が独自に作り上げるものがたりのパーツ」にも大いに影響することと思います。

あなた無くしては「あなたが独自に作り上げるものがたりのパーツ」も生まれてこないのです。

小説を楽しみ、愛し、読むとはそういうことであると伝えたかった小説、それが『図書館のお夜食』というものがたりなのではないでしょうか。

夜の図書館の求人広告のごとく。

毎日忙しく過ごしている方へ、つかの間の癒しとして読んでいただけたら嬉しいです。

文:東 莉央

東 莉央

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