書店員がおくる世界最速レビュー#4 畑野智美 『トワイライライト』
3月11日土曜日ごろ、畑野智美の新刊小説『トワイライライト』が発売されます。
「世界最速レビュー」シリーズとは、発売日まもなく書店員がその小説の見どころをたっぷりお伝えする連載です。
書店トワイライライト
小説『トワイライライト』は、三軒茶屋が舞台の大学生の日常奮闘小説です。
読者にエールを送ってくれるような、ほっと暖かな友情や恋物語の長編小説。
作中にはトワイライライトという書店が登場します。
実はこのトワイライライトは実在する店舗です。
「本屋であり、ギャラリーもあって、カフェもあり、屋上もあります。」
とホームページにも記載されている、型のない和やかな空間。
実在する不思議なお店、トワイライライトがつい気になってしまう小説『トワイライライト』で不思議なお店を追体験しませんか。
『トワイライライト』で心踊るエールを
『トワイライライト』は、とても心躍る小説でした。
初めから最後までずっと楽しくてたまらなかったです。
店名のトワイライライト。
“twilight”とは、夕暮れや黄昏を意味する英単語。
地平線近くに浮かぶ日の薄らあかりを指します。
小説『トワイライライト』の中で店名トワイライライトの由来を尋ねられた店主はこう答えています。
“li”がひとつ多い方が楽しそうかな。と。
こうして「なんとなく」な語感を掬ったネーミング。
その通りに「なんとなく」、けれどしっかり「楽しそう」な小説が『トワイライライト』です。
三軒茶屋がそれほど遠い場所ではない読者には、トワイライライトへ行ってみたいと感じさせることでしょう。
そんなとても楽しい気持ちにさせてくれる。
さらに、一種のエールを与えてくれるような小説です。
人生の夏休み
学生のとても楽しい日常がめいっぱい書かれている小説『トワイライライト』。
「大学生」には、「人生の夏休み」という代名詞が存在します。
学校や学科によるところはもちろんありますが、「大学生」が小説に登場したら「人生の夏休み」的メタファーとして読み取ることが多いでしょう。
では、コロナ禍での「大学生」の実態とは?
小説『トワイライライト』の世界には、新型コロナウイルスが存在しています。
序盤、大人に掛けられる「大学通ってるの?」と言うセリフ。
一度はコロナ禍で嫌と言うほど耳にする、学費や貧困の問題かと思って少しはらはらとしてしまいました。
学校を辞めざるを得ない「大学生」もきっと多いはずでした。
小説『トワイライライト』では「お金足りているの?」と言う意味ではなくて、「オンラインの授業なの?」と言う意味の質問だと分かります。
これは著者のあたたかな作風を壊さまいとする矜持のように感じました。
「大学生」は永遠に「人生の夏休み」のメタファーとして存在してほしい。
私も、「大学生」のみならず若者が不要な苦労をしないでいられる世界を望みます。
「なんとなく」、けれどしっかり「楽しそう」な『トワイライライト』
始めから最後までずっと楽しい。
心を踊らせるように読ませるためのあたたかい工夫が、たくさんたくさん詰まっている。
小説『トワイライライト』の読者に感じてもらいたいのは、そんな感想です。
小説『トワイライライト』の読者に受け取ってもらいたいのは、著者のそのような優しさです。
私は疲れている人にこそ『トワイライライト』を読んでもらいたいと思っています。
そして、お店トワイライライトも、きっとそのような羽休めができる場なのだと感じます。
日が当たるような屋上の表紙裏表紙も、小説と同じようにお店の雰囲気を存分に感じさせてくれます。
さらに小説『トワイライライト』にはこのような描写があります。
「気になっていたお店に入った。
それだけのことで、世界が少し変わった気がした。
さっきよりも、深く呼吸ができるように感じる。」
畑野智美 『トワイライライト』
このようないわゆる小さな幸せは、世の中にたくさんたくさん転がっているはずです。
私たちはコロナ禍で小さな幸せを見失ってしまっているような気がします。
『トワイライライト』のように素敵な小説を読んで、楽しい気持ちになることももちろん小さな幸せです。
主人公のように、新しく素敵な本屋さんやカフェを見つけることも、また幸せな楽しみの1つのはずです。
本の好きな小説主人公
私はこの物語の主人公、未明の本が好きな姿勢がとても好きでした。
日常の中で自然と足を運ぶ場所が本屋さんのようです。
トワイライライトともそうして出会います。
そう、日常的に本を楽しんでいるような学生がもっともっと増えてくれたらいいなと思います。
物書きである小説登場人物たち
そして、作中には大物の作家も登場します。
作中作家のあるセリフは、私もはっとさせられました。
「本に関する仕事がしたかったら、社会を知らなくてはいけない。」
たくさんの本が並ぶ景色を見ると、これは世の中の縮図だと感じることがあります。
小説を読んだり、評論を書いたりするような仕事がしたいと思っているこの身では、もっともっと社会を知っていくべき必要があると感じています。
身の回りの小さなものを愛す姿勢。
本を愛す姿勢。
大切なことを思い出させてくれると同時に、それらの描写こそが世界が少し変わった気にさせてくれる、特別なことばたち。
それらを、小説『トワイライライト』で読むことができます。
文:東 莉央
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