戸森しるこ/ぼくらは星を見つけた ブック・レビュー

レビュー/雑記
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書店員がおくる世界最速レビュー#8 戸森しるこ『ぼくらは星を見つけた』

2023年5月16日ごろ、戸森しるこ新刊『ぼくらは星を見つけた』が発売されます。

世界最速レビューシリーズとは、発売日まもなく書店員がその小説の見どころをたっぷりお伝えする連載です。

素敵な家庭教師の先生

小説『ぼくらは星を見つけた』は、主人公・が家庭教師職の応募のために面接を受けるところから物語が始まります。

立派なステンドグラスの建物の中に入ると、小学生の男の子を教える職であることを伝えられます。

生徒となる男の子の名前は、。私立の学校に通い、特に学力に心配もない、問題のない教え子です。

岬が勤めることになったちょっぴり変わった家庭教師の仕事。

その主な内容は、星や、雇い主のそらさんらと「家族」になることでした。

のちに岬は小説の中盤で語ります。

この職に応募したのは「家族がほしかった」からだと。

偶然の相互一致により、新しい家族の歩みが始まるのです。

勉強の後の演奏会

素晴らしくうっとりしてしまう場面があります。

それは、星と岬がお勉強を終えた後に、互いの得意な楽器を演奏し合う演奏会を開くという場面です。

家庭教師の先生と勉強後にピッコロとピアノの演奏会を開く。

なんてなんて素敵なのでしょうか。

勉強があまり苦にならずに、のどかな時間になるのではないかと思いました。

家族がほしいと願った者たちの望みが叶ったように、「先生」と「生徒」の垣根を越えた団欒の時間を過ごしていきます。

弾丸ピクニック

また家族みんなの気まぐれで、突然ピクニックをする場面があります。

ご飯やおやつ、デザートや飲み物などを詰めて地面に座りおしゃべりをしながらいただくひととき。

あなたは家庭教師の先生とピクニックをしたことがありますか?

主人公の岬は、家族に歓迎されすぎているということをありがたく思う半面、なんだか不思議に感じている様子です。

星を見つけるその時に

小説『ぼくらは星を見つけた』を読み進めていると、突然すべての疑問がばっと紐解ける瞬間が出てきます。

その紐解けるもやもやの一部を作者の戸森しるこは「星を見つける」「星を追う」と言い表します。

なんと美しい描写でしょうか。

読者にとって道明かりを示し、

主人公の岬にとっては新しい団欒に迎え入れられる瞬間。

小説『ぼくらは星を見つけた』の登場人物すべてのものがちょっとずつ他者を許し始め、共に生きていくために手を取り合う決定的な場面です。

強くて美しくて、清々しい画面。

星を見つけた主人公たちは、素敵な日々を送っていくことになります。

「憧れ」のメタファー

小説『ぼくらは星を見つけた』に登場する人物たちは、皆、家族や親子関係について理想を追い求めている状態です。

その「憧れ」のメタファーは、読後に思い返すと様々な場面に散りばめられていたと思います。

例えば、美しいステンドグラス。

「憧れ」がキラキラと詰まった宝石箱のように感じることができます。

透明のキラキラとした望みが押し固められて、凝縮されているのです。

演奏会やピクニックはどうでしょう。

ある時、始まった可愛らしい思いつきのように見えて、誰かがひっそりと計画をしていた工程のうちの1つなのではないかと受け取ることもできます。

確かに仲良くなるために一役を買った演奏会やピクニックは、一家団欒の象徴ととることも出来ます。

家庭教師がハウスキーパーの枠を超え、家族になるための第一歩でもありました。

クリスマスに現れるサンタさんはどうでしょうか?

星は小学校6年生で、もうサンタさんなんて信じていないと言い張っています。

一方で「自分の家にサンタさんがいたんだな」と信じることが星にとっての救いであるとも語っています。

サンタさん「役」が我が家にやってくることが、小説『ぼくらは星を見つけた』では、楽しいクリスマスを過ごすこと以上に重要になってくるのかもしれません。

親子の問題をとらえた、児童文学小説

小説『ぼくらは星を見つけた』は一般文系よりも、ヤングアダルトや児童文学として取り扱う書店が多いのではないかと想像しています。

その小説の中身はいかに。

小説『ぼくらは星を見つけた』は親子で一緒に読む家庭もあるかもしれませんし、学校の先生や児童養護施設の人と一緒に読む子もいるかもしれません。

私のように1人の成人が読むこともありましょう。

概ね想定される読者に対して挑戦的なメッセージを訴えてくる小説だと感じました。

「あなただって、1つの大切な輝く星だ」というメッセージを、ぜひ小さな読者たちに受けとって欲しいです。

文:東 莉央

東 莉央

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